第二話

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これじゃいけないと思い、あたしは思い切って声をかけることにした。 「ここが相手の部屋なんですか? 表札が出ていませんね?」 ドアの周辺を見てもどこにも表札は見当たらない。 「それもセキュリティや個人情報を流出させないためだ」 「へぇ。そうなんですねぇ。でも、ドアを開けたら別人の部屋でした、なんてオチやめて下さいよ?」 「そんなことはあり得ない」 キッパリと言いきった野田さん。 その目はジッとドアを見つめている。 「依頼者から場所を聞いているからってやけに自信満々ですねぇ? 聞き間違いとか記憶違いがあるかもしれないのに」 あたしは少し茶化すようにそう言った。 今日の野田さんはなんだかおかしい。 あたしがチャイナ服を着る時は目を輝かせていたけれど、それもすぐに落ち込んだような、重たい雰囲気に変わってしまった。 「記憶違いか……そうだったらいいんだけどな……」 「へ?」 キョトンとするあたしをよそに、野田さんは決意を固めたようにカードキーを取り出した。
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