第二話

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そして、勢いよくそれを差し込んで……ピッと短い電子音が聞こえて来た後、ドアのカギが開く音が聞こえて来た。 隣で野田さんが生唾を飲み込む音が聞こえてくる。 なんだか随分と緊張しているように見える。 本当に、今日の野田さんはどうしたんだろう? 不安がぬぐいきれないまま、野田さんがドアを開けた。 その瞬間。 部屋の中から男女の声が聞こえて来て、野田さんは動きを止めた。 その声は入って右手の部屋から聞こえて来ていて、時折「愛してるよ」とか「あなただけよ」なんて、恥ずかしいセリフが混ざっている。 それを聞いた瞬間、あたしは自分の体温が急上昇していくのがわかった。 16年間生きて来て付き合った経験が一度もないあたしには、少し刺激が強い。 いけない場所へ足を踏み入れてしまった感覚になり、咄嗟に後ずさりをした。 その時だった。 あたしの手首を野田さんがキツク掴んだのだ。 「一緒に……来てくれ」 野田さんが、かすれたか細い声でそう言う。 「で、でも……」 あたしは混乱して周囲を見回した。 この状況を打破するものがなにか無いかを思ったが、広いエントランスがあるだけでなにもなかった。
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