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私は雅に誘われて幾つかの電車を乗り継いで今此処にいる。
雅は手慣れているらしく、切符の手配やら全ての雑用をやってくれた。
だから幾ら感謝しても足りないくらいなのだ。
もっとも、雅に無理矢理連れ出されたのだけどね。
「それじゃ初めてだってことにして、ルールなんか話すね」
私の態度で何かを感じとったのか、雅は真面目な顔つきになった。初めてだってことにして、と言うセリフはいけ好かないけどね。
「あっ、それじゃよろしく。やっぱり知っていた方が断然面白いと言うか……」
礼儀として、とりあえず合わせてみる。少し間が空いたことで、雅の態度が変わるのが解った。
(悪いことしちゃったかな?)
私は又悄気ていた。
私は何時も雅に気を遣わせていた。
それが何を意味するのかは判らないけど、まるで腫れ物にでも触る感覚だったのだ。
だから雅には申し訳ないと思っていたのだ。
「ねえ、どうしてそんなに詳しいの?」
持ち上げたついでに聞いてみることにした。
「兄貴の受け売りかな? ヨーロッパではエペが盛んだから敵わないって知っているの。それでもエペをやるの」
雅のお兄さんとは面識はない。だけど、自分の意志を貫いている人だと思った。
「兄貴はそれで女性を守りたいんだって。だから一生懸命なのよ。きっと頼りにされる存在になりたいんだと思うよ」
「幸せだね。雅のお兄さんの恋人は……」
私は本気でそう思っていた。
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