1人が本棚に入れています
本棚に追加
ここは、壇ノ浦。
水平線に夕陽が沈みかけている。
水面には、平氏の幟(のぼり)、指物(さしもの)、
たくさんの兵士が浮かび、
空も海の中も朱に染まっている。
いちめんの紅。
水面から、光がわずかにしか届かない、青い青い水底。
ゆらぐ黒髪がある。そのあいだからのぞく、
小さな口からぽこり、と泡がひとつ、ふたつ。
泡は水面へと、ゆらゆらとのぼってゆく。
その小さな口の持ち主、トキは、
びっくりしたようにその泡をみつめていた。
――母上の言った通りだった。水を胸いっぱいに入れると、
最初は苦しいけれど、すぐに慣れて動けるようになりますよ、と――
最初のコメントを投稿しよう!