あきつしまの龍王

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すぐそばに、トキの祖母、二位尼(にいのあま)が 横たわっていた。 腰に宝剣『天叢雲(あめのむらくも)』を くくりつけている。二位尼もまだ生きてはいた。 が、胸のあたりから、ゆらゆらとひとすじの 赤い糸が、海面にむかってのぼっている。 ――尼ぜ、怪我したの?―― 水の中なので、あわおあわお、 としか聞こえないが、二位尼はわかったようだった。 トキはそっとかたわらに寄り添う。 二位尼は、最後の力を振りしぼるように、 やっとのことで腰のひもから 宝剣をはずしてトキに差し出した。 その眼は、もう行きなさい、と言っているようだった。 トキは首をふった。二位尼は口を、 「や、く、そ、く」と動かした。 トキも、すぐに行かなくてはいけないと、 わかってはいた。何度も、海の底に 沈んでからのことを言い聞かされていたのだから。 トキは宝剣を背中にくくると、一度だけ、 てのひらを二位尼の頬に合わせた。 二位尼はかすかにうなずくと、そっと眼を閉じた。 トキは二位尼から離れて、海中を泳ぎだした。 名残惜しく何度も振り返りながら。 何度目かに振り返ったとき、 もう青い水に阻まれて、何も見えなくなっていた。
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