あきつしまの龍王

7/9
前へ
/9ページ
次へ
トキの眼に、海の底の明るい街が見えてきた。 朱塗りの大きな鳥居を門として、 大通りがまっすぐ伸びている。 通りに面し、たくさんの建物が立ち並ぶ。 通りの並木は、梅と桃と桜が一緒に咲いている。 薄桃色の花びらが舞い、ところどころで小さな渦を巻く。 トキは再び、はだかの女の子の姿になって、 町の大通りにふわりと降り立った。 すると侍女の姿をした女たちが歓声をあげて取り囲み、 あっというまにトキを童姫の格好に仕立て上げた。 「龍王女さまー」 「お帰りなさい―」 出迎えた大小の龍、大勢の海人、薄衣をはおった女神、 天女、エビやカニ。みな、笑いさざめきにぎやかだ。 トヨタマ姫がすうっと近づいてきた。 「お帰りなさい。もう、みなさん先に着いておりますよ。 魂のかたちだとすぐに遠くへ行けますからね」 トヨタマ姫のうしろから、泡をまとった海人たちが たくさんあらわれた。町人の格好をしているが、 壇ノ浦で命を落とした家来、兵士や侍女たちだった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加