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「腕、悪いな」
女王の間へと続く長い廊下の途中で左側にいる虎が話しかける。まだ廊下の先は見えない。
虎が初めて話しかけてきたのは今から7か月ほど前になる。その時は「お前の腕まずかったぞ」と文句を言ってきたことを考えると感慨深い。
廊下を歩いていくと知った顔に会う。佐々木だ。
「やあ。ほんと驚きだよ。ここまで来るとは。」
僕だって驚きだった。
「まぁあれから1年経ったから10周年記念にはならなかったけれども、記念すべき日だよ。改めてお礼を言わせてもらうよー。ありがとう。」
あの佐々木がお辞儀をする。
「正直に言うとさー。無理だと思ってたよ。入学4日目で左腕を食いちぎられた時には特にね」
佐々木は笑って話すが、決して笑えることではない。
佐々木と別れて、しばらく歩くと扉が見えた。この先は女王の間だ。
扉の前に立ち、深呼吸をする。ここまで来たんだ。
「なあ、頼んだぞ虎」
僕は親しげに話しかける。この一年間で十分な信頼関係を築いてきた。
「命令は絶対に成し遂げる」
虎の心強い言葉を聞き、僕は覚悟を決め扉を開けた。
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