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大切な大切な宝物のようにわたしの背を優しく包んでくれた。
「……おまえが本当に誰かを好きになった時まで、ちゃんと大事にとっておけ。いつか、誰かがおまえの前に現れる……その時まで、な」
「…うん」
顔を上げると、せつなげに揺れる瞳と目が合った。
「もしも、俺がおまえに―――」
呟くような声。
けれど、その先を奏さんは飲み込んだ。
ギュッと抱き締められ額に柔らかなくちびるが触れるとすぐに離れた。
「……りお、おまえに本当に好きなヤツが現れたら―――応援する」
悲しいくらい優しく笑ってわたしを振り向いた。
「帰るか」
差し伸べてくれたその手を握りしめる。
奏さんの手は優しく温かかった。
【完】
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