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白川さんのように初めから持っていたわけじゃない。
小さい頃から努力して築き上げてきた道が閉ざされてしまったんだ。
「おまえが今までしてきた努力は無駄にはならない。
その根性を仕事に生かせよ。
おまえにしかできないことをやってみせろ。
それで自信がついたら、一人の女をちゃんと愛せ。」
「仕事はともかく女なんて…」
今まで関わってきた女どもを思い浮かべて吐き捨てるように言う。
「そう言う白川さんだって。」
俺と同じぐらい女をとっかえひっかえしていたじゃないか。
「俺はちゃんと一人の女だけを愛してる。絶対に手に入らない女だけどな。」
初めて漏らした白川さんの本音は俺の胸をひどくざわつかせた。
すべてを持っているのに一番欲しいものは手に入らない。
それがこの人を冷たい神ではなく、血の通った人間にしているんだと思い当たった。
どんなすごいイケメンでも、愛する女が手に入らないなら意味はないのかもしれ
ない。
「死にたいなんてことは、ちゃんと生きてから言え。」
白川さんの言葉がストンと胸に落ちた。
どうやら俺は酔った勢いで死にたいだなんてほざいたらしい。
人生に失望していたのは確か。
ひねくれ者の俺が先輩の言葉に従って、仕事にやりがいを見出すようになったの
は3ヶ月後。
そして、人生が色づき始めるのは、もっと先の話。
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