手料理

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意地でも遅刻するもんかと思った私は次の日、いつもより30分早く出社した。 まだ誰も来ていないだろうと思っていたのに、オフィスに入ると見慣れた人影を見つけてドキッとした。 「おはようございます。早いんですね。」 隣の椎名さんに挨拶すると、 「おはよう。おまえも早いじゃないか。 飯島は?一緒に来なかったのか?」 とまた昨日の話を蒸し返すようなことを言われてムッとした。 「なんで一緒に来るんですか?家、反対方向ですから。」 「よく言うよ。夕べおまえん家に泊まったくせに。」 「泊るわけないですよ。恋人でもないのに。」 2人とも仕事の用意をしながら相手の顔も見ずに、ポンポンと言葉の応酬を続ける。 こんなことは初めてだった。 「クリームシチュー、作ってもらったんだろう?」 ハッとして椎名さんを見た。 パソコンを立ち上げてメールをチェックしている。 昨日の私たちの会話を椎名さんはどこから聞いていたんだろう。 私、何て言った? 椎名さんが好きだってバレるようなことを何か言わなかっただろうか。 急に背筋に冷や汗が流れた。 「恋人じゃないのに飯、作ったりするか?」 私の視線に気づいたのか椎名さんがパソコンから私へと顔を向けた。 朝からこんな不機嫌オーラ出しまくりなんて、よっぽどイヤなメールが来ていたとか? 「作りますよ。友だちだから。」 触らぬ椎名に祟りなし。 今日一日、気持ちよく仕事をしたいから、私は好戦的な態度を和らげた。 「ふーん。じゃあさ、俺も宮沢んちに飯、食いに行っていい?」 「は?」 完全にフリーズ。頭も体もカチコチに急速冷凍したかのように機能停止。 「ワイシャツの弁償したがってたよな? 宮沢の手料理10回分で手を打ってやる。」 「は?」 「あ、俺、メシの時ガヤガヤうるさいの嫌いだから他の奴呼ぶなよ。飯島とか。」 「は?」 「今夜は焼き魚が食いたいな。残業しないように気合い入れて仕事しろよ。 わかったか?」 「はい。」 「よし。」 椎名さんが満足そうにうなづいて、私は自分がはいと返事してしまったことにようやく気づいた。 ああっ、椎名さんに”わかったか”と聞かれると反射的に”はい”と答えてしまう私の悪い癖だ。 ど、どうしよう。部屋はとりあえず掃除して綺麗にしてある。
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