手料理

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焼き魚!そうだ。焼き魚だ。 帰りにスーパーに寄って買い物しないと。 えっと、付け合わせは何にしよう。 ようやく頭が回転を始める。 「あの、あの。」 「あ?宮沢に拒否権はないからな。」 ビシッと言われてしまったが、ここでくじけてはいられない。 「いえ、あの、椎名さん嫌いな食べ物ありますか?」 「え?」 「あの、焼き魚に切り干し大根の煮物とか、お豆腐とワカメのお味噌汁とか、カブとキュウリの浅漬けとか作ろうと思うんですけど、嫌いだったら別の物にしますから。」 頭に浮かんだ献立を捲し立てると呆気に取られたような顔をした椎名さんがフイッとパソコンに目を逸らせた。 「スゲェ好き。だから大丈夫。」 ボソッと呟かれた”好き”という言葉に心臓が跳ね上がる。 バカみたい。椎名さんは献立の料理を好きって言ったのに、私自身を好きって言ってもらったみたいにドキドキするなんて。 「良かった。じゃあ、あの、お待ちしてます。」 「おう。」 あれ?お待ちしてますって言ったって、私のマンションの場所を椎名さんが知るわけない。 住所と携帯の番号とアドレス。それに最寄駅からの簡単な地図を慌てて書いて椎名さんに渡した。 「駅からちょっとわかりにくいんで、迷ったら電話して下さい。」 「ああ。うん、そうか。」 受け取ったメモをきちんと四隅を合わせて畳む椎名さんを横目で見た。 相変わらず几帳面だ。 いい加減に畳んでポケットに突っ込む私とは大違い。 だから、いつもイライラさせてしまう。 そ、そうか。こんな几帳面な人だから、ご飯やおかずのよそい方にもいちいちケチをつけられてしまうかもしれない。 あ、そうだ。椎名さんは潔癖症だから拓己くんがいつも使うお茶碗やお箸じゃ嫌かもしれない。 お茶碗とお箸とお椀と湯呑ぐらいは椎名さん用のを買っておいた方がいいだろう。 10回も来てくれるんだから。 嬉しい気持ちももちろんあるけど、戸惑いや不安の方が大きくて、何となく沈みがちになる気持ちに気合いを入れるように深呼吸を1つした。 「おはようございまーす。」 朝からハイテンションなみのりちゃんの声がして顔を上げると、私と椎名さんの口から同時に、おはようと声が出た。 「あれ?椎名さん、何かいいことありました?」 「別に。」 「ふーん。なんか朝からご機嫌じゃないですか?」
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