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今日、椎名さんが着ているワイシャツはお気に入りの一枚だ。
女子力の低い私は椎名さんが毎日同じスーツを着ていたって気づかない。
でも、同期のみのりちゃんは違う。
一見、普通の白いワイシャツのように見えるけど、台襟とカフスがブルーのスト
ライプになっているおしゃれなワイシャツは、椎名さんの着用回数が一番多い一
枚だと教えてくれたのはみのりちゃんだった。
よりによって、そのお気に入りに口紅をつけてしまうとは。
私の唇が接触したワイシャツなんて、いくらお気に入りでも気持ち悪くて捨ててしまうかもしれない。
そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
とは言え、3つ先輩の椎名さんに私ごとき若輩者が『弁償します』と言うのもおこがましい気がする。
どうしたものかと悩んでいたら、いきなりおでこに手が伸びてきた。
「花菜、おでこにシワ寄ってる。大丈夫だった?」
いつのまに近づいていたのか、目の前にいたのは同期の拓己くんだった。
「あ、うん。座ってたから。拓己くんは?大丈夫?」
確か拓己くんはあの時、コピー機の方へ歩いていたような気がする。
「大丈夫。それより、今夜、花菜んちに行くから。」
ニヤッと笑った悪そうな顔に嫌な予感しかしない。
「ほらぁ。花菜ちゃんは飯島くんに任せて、椎名さんは私を守るべきでした
よ!」
みのりちゃんは冗談めかして言ったけど、その声はトゲトゲしていて彼女の本音
だということがありありだ。
思わず拓己くんと目が合う。
「だよな。ホント血迷った。」
ボソッとつぶやいた椎名さん。
さっき刺した釘を抜いて塩を塗りこまれた気分になった。
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