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椎名 翔(シイナ カケル)。26歳、独身。
我が東和パッケージ株式会社の企画デザイン課のエース。
私とみのりちゃんが入社する直前までいた米森奈緒という女子社員と組んで、
数々のヒット商品を世に送り出している。
1年前、その米森さんが寿退社してしまい、その後釜として採用されたのが、私
こと宮沢 花菜(ミヤザワ ハナナ)と柏みのりちゃんだ。
入社2年目に突入したばかりの私はまだまだ戦力外といった存在で。
米森さんみたいにとまではいかなくても、早く皆の足を引っ張らないようになりたいと日々努力している。
…つもりなんだけど、椎名さんにとってはどうやら私はかなりイライラする存在
らしい。
椎名さんの4つ上だった米森さんが凄過ぎて、私がダメダメに見えるのは仕方な
い。
でも、私と同じぐらいダメダメなみのりちゃんには普通に接している椎名さん
が、なぜか私にはムチャクチャ厳しいのだ。
だいたい呼び方からして違う。みのりちゃんのことは課の皆が『みのりちゃん』
と呼ぶ。
短大出で私より2歳下のみのりちゃんは、女子力の高い今時の女の子だ。
仕事も大事だけど、恋愛とおしゃれはもっと大事というスタンス。
それでも、その笑顔と明るい話術で、あっという間に課内のムードメーカー的ア
イドルになっていた。
片や私は気の利いた冗談一つ言えない人間で、皆からも未だに『宮沢さん』と固
い呼ばれ方をしている。
椎名さんに至っては『宮沢』と呼び捨てだ。
私にはニコリとも笑わないのに、みのりちゃんには極上スマイルで『みのりちゃん』と呼びかける。
まあ、男の人なら誰だって美人のみのりちゃんの方がいいに決まっている。
だから、こんな真面目だけが取り柄の冴えない私を『花菜』と呼んでかわいがってくれる拓己くんは奇特な人だ。
かわいがってくれていることは確かだけど、これには実は裏がある。
拓己くんには社外に彼女がいる。
大学時代からの付き合いだそうだけど、残念ながら彼女は今、1年半の企業研修でドイツに行っているらしい。
入社後すぐの同期の飲み会で、拓己くんがその話をした途端、女の子たちの目の色が変わった。
「え?遠距離?じゃあ、別れるのも時間の問題ね。だって、寂しいでしょ?男の人っていろいろ困るだろうし。」
恥ずかしげもなくそんなことを言ってみのりちゃんは、拓己くんにしなだれかかった。
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