椎の花

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「会ったっていうか社内にいるの。でも、その人とは1回だけだって。」 「…もう1人は?」 「私が入社する前に結婚するんで辞めた人。説明会で見たことあるの。」 「その人とも1回だけ?」 「ううん。その人とは何回も。セフレだったって。」 「よくわかった。つまり、そういう男だ。」 「真樹の言いたいことはわかるけど、昔はそうでも今は違うから。本当に私1人をちゃんと真剣に愛してくれてる。この間会って、わかったでしょ?」 「わかったのは、花菜に気があるってことだけ。どこまで本気かも、どれほど飽きっぽいのかもわからない。 今の話を聞いた限り、まともな恋愛をしてきた、まともな感覚の人間とは思えない。 結婚して浮気されて泣くのは花菜なんだぞ?やっぱり俺は反対だ。 親父だって、花菜を1回だけの女やセフレなんかと同じに扱われていいと思うわけがない。」 持ち手の興奮が伝わったせいか、真樹の玉は小さいまますぐに落ちてしまった。 「他の女の人たちと同じに扱われたことなんて1度もない。最初から私を特別に扱ってくれてるよ。」 毎日怒鳴られバカにされの酷い扱いだったけど、特別は特別だ。 「それに今はまともに恋愛して、ちゃんと結婚して家庭を持とうとしている。うちにも挨拶に来るって言ってくれてるし、私のことも親に紹介するって言ってる。」 「当たり前だ。」 また別の1本に火をつけて真樹がしゃがむのを目の端で捉えるけど、私の視線はジージー言ってるオレンジの玉に釘付けだ。 「賛成してよ。浮気されて泣いて出戻ってくるかもしれなくても賛成して。 このままじゃ私、パチパチ弾けたいのにジージー言って落ちちゃう玉みたいだよ。」 幸い今回はパチパチ弾け出した。 「そんなにあいつがいいのか?」 苦しそうな切ない声に動揺するけど、あえて花火に集中する。心を穏やかにしないと落ちてしまうから。 「翔さんは浮気はしないと思う。他の人に目が行かないように頑張る。」 「頑張らなくても花菜は十分かわいいよ。あいつにはもったいない。」 「あーあ。」 パチパチ弾け飛んで命を全うした玉は小さくなって消えていった。 真樹の玉も落ちたようで、真樹は立ち上がって私に手を差し出した。その手に掴まって私も立ち上がる。
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