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千代は自分の体を抱くように腕を絡ませ、大きく吹き飛ばされる。そこに止めを刺そうと距離を詰めるが、脇腹に走った鈍痛により一瞬の遅れが生じてしまった。
その間に、千代は態勢を立て直し、鉄扇を一振りしながら陰陽師としてのチカラ、祝詞を唱え叫ぶ。
「『鉢!』」
「なっ!?」
私に油断はなかった。確かに千代は呪符を手にしていなかったんだ。それにも関わらず、両足で立つ地面から先端の尖った土の塊が襲ってくる。
これは間違いなく"陰陽術"だ。つまり、推測するに千代の持つ鉄扇は賀茂陰陽式の呪符の代わりもこなす、賀茂の特別製武具と言ったところか。
「まだじゃ!『裂!』」
千代が更に鉄扇を一振りすると先ほど出現した土の針が避け、その一つが私の足を挟み込む。
「くっ」
「いくぞ、わしオリジナルの技じゃ。『鋼箋』」
そして、千代が更に鉄扇を一振りすると、その鉄扇は徐所に形状を変え一つの剣となる。
己(つちのと)の次は辛(かのと)の陰陽術だ。
懸命に足を抜こうとするが、がっちりと絡みつく土は、私の動きを許してくれそうにない。
そこへ千代の剣が襲い来る。
でも、足が動かなくとも"手は動く"んだ。私は千代の斬撃に対応するが、全てに反応する事が出来ず、身体にかする剣撃の数が徐々に増えてくる。
千代の剣技についても相当なものだった。
「"陰陽術に感けた瀬十朗"のように私は"甘くない"!ありとあらゆる武術を嗜んでおるでの」
平安の世から生き長らえる亡霊ってのも伊達じゃないわね。
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