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雲の隙間から白い姿をほんの少し覗かせて、目の前の首が鈍く月光を反射したので、僕は再び上ずった悲鳴を出しかけた。
オイオイ、いちいち過剰に反応しすぎと、一人叱咤し、さらに一歩、上履きを床に滑らせる。
近づいてみると、なんてことはない。
机の上にあった人の生首の正体は、普段は、理科準備室のガラスケースに収まった人体模型の頭だった。
陶器で出来た首の顔半分は、真皮を剥がした筋繊維が丸見えで、鼻は半分削げている。
桃色の筋肉の筋に覆われた、眼球の模型は、横から見ると、スパリと縦に切られた断面図が、丸い透明のガラス玉に収まっており、水晶体であるレンズ部分や角膜などが水色や白といった着色がされ、部位の名称が小さく黒で印字されていた。
ご丁寧にも首の上には、『日出山中学校野球部』と白糸で刺繍された野球帽まで被せてあった。
きっと明るい時間帯に観ていたら、すぐにわかったはずなのに、月明かりしかない場所のなかでは、顔の半分が血で濡れた人の首と思ったほどに、ぞっとさせるものへと変わっていた。
教室の後ろの扉は施錠されていたから、黒板がある前の扉からしか3-B教室に入ることが出来ない。
扉を開けて、すぐに机があるはずはなかったので、扉を開けた人物が、人体模型の首に気づく場所まで、わざわざ机を移動したのだろう。
まったく、手の込んだ悪戯だな。と、悪友の仕組んだ罠に舌打ちをする。
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