第一帖**春和景明**

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『お兄様。誤解しないでほしいわ。私は長女じゃない。お父様たちにとっての長女は……』 だが、言い掛けた桃の言葉を途中で遮り、貞行は背を向ける。 『いい!その名は言うな!』 いつもは穏やかな兄が急に声を荒らげたことにより、桃は思わず身体を硬くした。 『お兄……様……?』 しかし、次の瞬間、貞行はハッと我に返ったのか、落ち着きを取り戻す。 『すまん……取り乱してしまって……』 手短にそう告げる兄の背中は怒りか悲しみか、僅かだが震えていた。 貞行はまだ十年前のことを気にしているのだろうか…… (お兄様……まだあのことを……) 桃は胸がチクリと痛くなるのを堪えながら、去っていく兄の姿を見送った。 * * * * *
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