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そんな事を考えていると彼女がやって来た。あの浴衣を着ている。僕は彼女に見つからないようにそっと隠れた。
僕たちは二年間、遠距離恋愛をした。でも僕のせいで彼女を苦しめてしまった。ある時、大学のサークルの飲み会の席でのことだった。トイレから戻ってくると、サークルの女性の先輩が僕の携帯電話で話していた。
「祐二。由美って子から電話だよ」
えっ。由美なのか。僕は慌てて電話を取った。でももう切れていた。その後から少しづつ君を苦しめてしまったね。僕が誤解されるような事をしなければって何度も悔いたよ。僕は誤解を解こうと何度も君にメールや電話をしたんだ。そんなある時、君の友人からメールがあった。
『由美は今、精神的に苦しんでいます。本当に由美の事が好きなら、しばらくそっとしておいてあげて欲しい。由美の気持ちは祐二君しか向いていないから、それは安心して。祐二君が好きだから苦しんでるの。由美が落ち着いたら連絡します』
僕は訳が分からなかった。すぐに由美の元へ飛んで行きたかった。でも必死で我慢したんだ。胸が張り裂けそうに苦しかった。一時は十キロも体重が落ちたんだよ。
君は四年前の足跡をたどるように店をめぐっているね。金魚すくい…… 綿菓子…… たこやき……、そして輪投げ。僕は店のおじさんに頷いた。おじさんはさりげなく『くまのキーホルダー』を並べてくれた。やっぱり君は輪投げが下手くそだね。僕はおじさんから輪っかを受け取った。
四年前と同じように『くまのキーホルダー』めがけて投げる。
『ことんっ』と音がして輪っかが入る。
「あっ!」
と君が声を上げた。横顔で悔しいのが伝わる。口をきっと結んで僕の方を振り向いた。
「あっ!」
ふたたび君が声を上げた。驚かしちゃったかな。僕はおじさんから受け取ったキーホルダーを君に手渡した。
「相変わらず、下手だね」
「どうして? どうしてここにいるの? 」
「逢いに来た。取り敢えず、少し歩かないか」
僕は彼女の手を引いて歩く。あのころと変わらない柔らかい手、シャンプーのいい匂いもそのままだ。ちっとも変ってないね、君は。
僕達は祭の広場の端っこにある休憩用のベンチに腰掛けた。
「僕は帰ってくるよ。町役場に就職が決まったんだ」
「あら。そうなの。良かったね、就職決まって。おめでと」
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