君に会うために

3/4
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 そんな事を考えていると彼女がやって来た。あの浴衣を着ている。僕は彼女に見つからないようにそっと隠れた。  僕たちは二年間、遠距離恋愛をした。でも僕のせいで彼女を苦しめてしまった。ある時、大学のサークルの飲み会の席でのことだった。トイレから戻ってくると、サークルの女性の先輩が僕の携帯電話で話していた。  「祐二。由美って子から電話だよ」  えっ。由美なのか。僕は慌てて電話を取った。でももう切れていた。その後から少しづつ君を苦しめてしまったね。僕が誤解されるような事をしなければって何度も悔いたよ。僕は誤解を解こうと何度も君にメールや電話をしたんだ。そんなある時、君の友人からメールがあった。  『由美は今、精神的に苦しんでいます。本当に由美の事が好きなら、しばらくそっとしておいてあげて欲しい。由美の気持ちは祐二君しか向いていないから、それは安心して。祐二君が好きだから苦しんでるの。由美が落ち着いたら連絡します』  僕は訳が分からなかった。すぐに由美の元へ飛んで行きたかった。でも必死で我慢したんだ。胸が張り裂けそうに苦しかった。一時は十キロも体重が落ちたんだよ。  君は四年前の足跡をたどるように店をめぐっているね。金魚すくい…… 綿菓子…… たこやき……、そして輪投げ。僕は店のおじさんに頷いた。おじさんはさりげなく『くまのキーホルダー』を並べてくれた。やっぱり君は輪投げが下手くそだね。僕はおじさんから輪っかを受け取った。  四年前と同じように『くまのキーホルダー』めがけて投げる。  『ことんっ』と音がして輪っかが入る。  「あっ!」  と君が声を上げた。横顔で悔しいのが伝わる。口をきっと結んで僕の方を振り向いた。  「あっ!」  ふたたび君が声を上げた。驚かしちゃったかな。僕はおじさんから受け取ったキーホルダーを君に手渡した。  「相変わらず、下手だね」  「どうして? どうしてここにいるの? 」  「逢いに来た。取り敢えず、少し歩かないか」  僕は彼女の手を引いて歩く。あのころと変わらない柔らかい手、シャンプーのいい匂いもそのままだ。ちっとも変ってないね、君は。  僕達は祭の広場の端っこにある休憩用のベンチに腰掛けた。  「僕は帰ってくるよ。町役場に就職が決まったんだ」  「あら。そうなの。良かったね、就職決まって。おめでと」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!