反芻と逡巡の日常

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◇  合計八台あるモニターには、あらゆる角度から撮影された教室内の映像が映し出されていた。 「どうだね、首尾は」  白衣をまとった所長が、研究員へと問いかけた。 「変化なしですね、所長。ただ……」  怪訝そうな表情で俯いた研究員を見て、所長はオウム返しに聞き返す。「ただ?」 「いえ、たいしたことではないのですが」 「随分ともったいぶるね。なに、遠慮せず言いなさい」  Y研究所が総力を挙げて実施敢行する人工知能を埋め込んだアンドロイドの製造は、その段階をフェイズⅡに移行していた。すなわち『緊急時の対応について』である。  教室内に人工的な地震を引き起こし、室内に配された女性型・男性型の試作機、計四十台を被験体に反応をうかがうのである。各アンドロイドの、人間で言う脳の部分には記憶媒体が埋め込まれており、高校生相当の語彙・知識をプログラミングしている。 青年が取りうるべき緊急時の行動を彼らアンドロイドが自主的にできれば、実験は成功であった。
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