第26話 お取り寄せ

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 そうしたらね、いつも陰鬱(いんうつ)にお皿ばかり数えているお菊さんが、やけに柔和な表情であたしを迎えたの。周りにジャコウアゲハを従えて。 「わたし、間違っていたわ」 「ええ? どうしたの?」 「いつも気遣ってくれていたのに。どうしてあなたの優しさに気づかなかったのかしら」  調子狂っちゃうけど、お菊さんもようやく怨念から解放されるときが来たのだと、あたしも心から歓迎したわ。  だって、お菊さんったらすでに料理を用意してくれていたの。井戸の縁にぐるりとお皿を並べて。  伊勢エビほど大きな頭のついたエビフライとか、ナマズだかアンコウだかの洗い、(こぶし)くらいに大きな芋煮。あれは何かしら。牛……ではないわね、象の背骨ほどある骨髄の丸焼き。  世界から選りすぐりの食材を集めてきたに違いなかったわ。  あたし、すっかり感動してしまったの。 「食べてもいいのかしら?」 「ええ。そのために用意したんですもの」  お菊さんがそういうので、あたしは喜んで食べていったわ。片っ端から全部。  結構な量だったけど、残すなんて考えつかなかった。  夢中で食べ尽くしたの。  はたと我に返ってお菊さんを見上げると、お菊さんはにこやかにあたしを見ていた。  だからあたしは素直に反省の弁を述べた。 「ごめんなさい。あたし、ひとりで食べてしまったわ」 「いいのよ」 「ずごいわ。おいしくて、とまらなくて――」  すると、興奮冷めやらぬあたしの目にも、次第にお菊さんの微笑みが虚ろなものに思えてきた。  ひょっとして、あたし、はめられたのかしらと思ったわ。  毒を盛られたのではないかと。  だけど、あたしはもうこの世の者ではないのよ。  それしきの毒でどうにかなるなんてことがあるかしら。  お菊さんはあたしの両手を取ってうながした。 「それで、どうしたの、おいしくて、とまらなくて、それから?」 「――おいしくて、とまらなくて、永遠に食べられそうだった――こんな料理、どこで手に入れたの」  するとお菊さんはにやりと笑ってこういったの。 「井戸の奥の奥のほうからお取り寄せしたの」  なんてことなのかしら。気がついたらここにいて。  まさかと思うんだけど。  あなた、黄泉の国の番人じゃないわよね?
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