第13話 小児病棟の折り鶴

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 和希が救急車で運ばれた病院は小児病棟があるところで、短期入院も12歳以下ならだいたいそこに入院させらるようだった。  和希が入院した部屋は病床数が6つ。  すでに5人が入院していて、その誰もが持病を抱えた長期入院患者であった。  和希が入院する直前もやはり満室であったようなのだが、それまでいた患者は病状がよくなって退院したのか、亡くなったのか、和希は同部屋の患者に聞くことができなかった。  和希は片腕だけの負傷であったので、とにかく退屈だった。  優馬がせっかく持ってきてくれたプリントとノートの写しだったけど、授業中でも動きたくてうずうずしているのに、ひとりで黙々と勉強するのは無理だった。  レクレーションルームなどを行ったり来たりして時間をつぶしていた。  もともと、同部屋の子たちと仲良くするつもりはなかった。  彼らは自分にはわからない病気を抱えていたし、聞いてみたところで理解できそうにもない。かわいそうと同情するのもなんか違う気がしていた。  それに、彼らはもう長く同じ時間を共にしていて、その小さなコミュニティーに入っていけるほど和希は社交的でもなかった。  探索も飽きて部屋に戻ってくると、ふと自分のベッドの下に折り鶴が落ちていることに気がついた。  なにしろこの部屋にはたくさんの折り鶴があった。  和希のクラスメイトも作ってくれたし、他の子たちのベッドの頭上にも千羽鶴が飾ってある。  自分のベッドを使っていた前の患者のものということもあるだろうし、もはや誰の物であるか確認するようなことでもなかった。  とりあえず和希は折り鶴を拾った  それはがさつな折り方であった。  首の部分が斜めの方向を向いているし、羽根の折りあわせの部分がぴったりとしていなくて、白い裏地が見えてしまっていた。  よく見ると、その白い裏地に鉛筆でなにか文字が書かれているのが見えた。和希は片手でなんとか折り目を解体していき、折り紙を広げた。  そこにはひらがなで「しんでかえってきてね」と書かれていた。  和希はとっさにくしゃっと手で握りしめ、ゴミ箱に捨ててしまった。  このメッセージはどういう意味なのか。  死んだら帰ってこられないではないか。  気味が悪すぎて誰にもいえなかったし、なかったことにしてしまいたかった。
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