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歩いて30分ほどの距離だった。
もう帰ってしまおうかと思った。
誰も気づきやしないだろう。
――いや、まだ日は落ちていない。
のこのこと帰るところを誰かに見られてしまうかもしれない。
そんな問答を繰り返しながら歩き続け、とうとう石階段の前までやってきた。
お社は88ある階段を登った小高いところにある。
なので便宜上、階段の下にも祠があって、御輿を保管しておく倉庫もここにある。
お祭りの時にはこの広場に村人が集まり、御輿を担いだあとご神体だけをお社に運んで安置しておくのだ。
そのお社には7歳未満の子供しか入れないので、このまま少子化が進んでいったらどうしようかといった話しも持ち上がっている。
遥人もお社に入れるのはこれが最後だった。
日はすっかり沈み、あたりの山の輪郭がうっすらと見えるだけのなか、1つずつ階段を登った。
昔は車だってなかったのだから、こうやって集落から歩いてくるのが普通であっただろう。
一人前になるってのは、こういうことなんだろうなと、遥人は自分自身を頼もしく思っていた。
躊躇していたのが馬鹿らしくなるほど高揚し、88ある階段も苦とは感じぬうちに登りきった。
木でできた鳥居をくぐり参道を歩く。
風に揺れる木々の音だけが聞こえた。
お社はいつからそこにあるのか、朽ち果てそうなほどに古かった。
扉は表側にあるかんぬきだけで、鍵はかかっていない。
遥人はかんぬきの棒を抜いて扉を開けた。
奥にはご神体を安置しておく祭壇があるが、手前は布団が一組敷ける程度の広さしかない。
扉を閉めて、祭壇の前にあぐらをくんで座った。
人工的な明かりのないところをずっと歩いてきたからか、暗さにも慣れて不思議と怖さはまったくなかった。
ただ、何もしないでじっとしているのが退屈で、なにを考えたらいいのかもわからず、早く迎えが来ないかなということばかりを思った。
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