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どのくらい時が経ったのか見当もつかず、さすがに迎えが遅いんじゃないかと心配になるころだった。
がたっと、背後で扉が開く音が聞こえた。
「お母さん?」
遥人は立ち上がって出口に向かうと、扉の隙間から見えたのは母親ではなかった。
「だれ?」
「私?」
と、女はいう。長い髪が風にそよいで半分顔を隠す。
「あなたを迎えに来たのよ」
「お母さんはどうしたの」
母親の身になにかあったのか。
そうでなければ他のひとが迎えに来るはずはなかった。
きぃと音を立てて扉が開いた。
知らない女だった。
着古したカーディガンが肩からずり落ち、裾の長いスカートで、足下がよく見えない。
「お母さんはね、この村から出て行ったのよ」
「なにいってるの。ぼくを置いてどこかへいくわけないでしょ」
「お母さんの役目は終わったの。これからは私と暮らすのよ」
「そんなわけない!」
遥人は入り口をふさごうと扉に手をかけた。
だが、女はものすごい速さで扉を押さえ込んだ。
「あなたはもうお社から出なきゃいけない。もう七つを過ぎたのだからね」
遥人が後ずさると女は手を差し伸べた。
しきたりどおりに女はお社の中までは入ってこようとしない。
遥人はせまいお社の中でその場を動かなかった。
「あなたはどうしてこの村に七つ詣での儀があるのかを知らないのね」
女は嘆くように手を下ろすと、つくりごとめいた話しをした。
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