第3話 七つ詣で

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「さぁ、行きましょう」 「いやだ。無理矢理連れて行かれても誘拐されたっていうもん」  なびいた髪の隙間から、女の鋭い眼光がさした。 「まだわからないの? あなたは売られたの。お母さんはお金を受け取ってあなたを売った。私が捕まればお母さんも牢屋に入ってしまうのよ。それで、あなたは幸せ?」  遥人は母親がどれだけ自分のために一生懸命働いてくれているかを知っていた。  本当は自分がいないほうがもっと楽に暮らせると思っていたのかもしれない。  自分がいなければもっと早くに離婚して、あんな男から暴力を受けずに済んだのかもしれない。 「もう七つだから、わかるよね?」  見透かしたように女はいった。 「さぁ、行きましょう」  女は参道を鳥居のほうへ向かって歩き出した。  遥人もお社を出てついて行く。  女は振り返って遥人の姿を認めると、薄く笑ったように見えた。  これからどうすればいいのか。  鳥居をくぐり、石段を降りる。  父だったら救ってくれるだろうか。  たまに電話をよこして近況をたずねるくらいだから、自分のことを気にかけてくれていると思いたかった。  この女について行くくらいなら……。  目の前を行く女は長いスカートを引きずっていた。  そうとは気づかずに遥人は裾を踏んでしまった。女がバランスを崩したとき、遥人はとっさに女の背に体当たりしていた。  手すりもない急な階段だ。  女は宙をあおぐように80もの階段を転がり落ちていった。  女の姿はあっというまに闇に飲まれ、女が遠ざかっていく音だけが聞こえた。  大変なことになった。  早くここから立ち去らないと。  遥人は階段を駆け下りて転がっている女の死体に目もくれず走り抜けた。  すると、前方からまばゆい光が当てられた。  車のヘッドライトだ。  誰かがこちらへやってくる。  女の死体が見つかってしまう。  遥人は急に怖くなって立ちすくんだ。  もう、逃げようにも逃げようがなかった。  車は遥人の前に止まり、運転席から誰かが飛び出してきた。 「遥人!」  聞きなじみのある声に安堵で涙がこぼれた。  しっかりと抱きしめられ、「お母さん……」と嗚咽をもらす。 「なんでひとりで来たりしたの」 「お母さん……」 「もう二度とこんなバカなことはしないで。お母さん、遥人がいなくなったらどうにかなってしまいそうよ」 「お母さん!」  遥人はお母さんをぎゅっと抱きしめた。
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