第5話 あかずのコインロッカーを開けてみた

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第5話 あかずのコインロッカーを開けてみた

 ルーズな芙美(ふみ)はいつもギリギリだった。  電車を一本逃しても、学校まで徒歩15分のところを半分で走り抜けば、なんとか遅刻はまぬがれるが、朝からそこまでの体力消費は避けたいところだ。  頼む、間に合って!と、心の中で祈る。  駅構内を全力疾走してみたものの、無常にも目の前で電車の扉が閉まった。  どうせこんなことだろうとあきらめも早かったが、いつもとちょっと違ったのは、間一髪で乗り込んだ目の前の男子高校生がホームに財布を落としたことだった。 「あのう……」  声をかけようとしたら電車は動き出してしまった。  その男子生徒は車両の中を前方へ移動している。  ずりかかったズボンの後ろポケットから音も無く転がり落ちたので気づかなかったらしい。  誰かと待ち合わせをしているか、降りるときに階段に近い車両へ移ったのだろう。  財布にも、芙美にも、まったく気にとめていなかった。  都会の電車と違って次の電車が来るまで結構間がある。  ひとけもなく、ホームには自分と財布が残された。  男子生徒が落とした財布は折りたたむタイプのもので、落とした拍子に開いて内側が丸見えになっている。  すぐ目にとまったのは、番号が書かれた楕円型の青いキーホルダーだった。  カードを入れるポケットに差し込まれている。  ロッカーの鍵といったところか。  どこかで見たことがあるような気がするのは、ありふれたタイプの物だからだろうか。  とりあえず落とし物として届けた方が良いだろうと拾い上げた。  札入れには千円札が三枚、小銭は五百円程度。  額は多くないが、昼食を買うつもりでいたのなら、所持金ゼロというのはきびしい。  駅員が見当たらないので仕方なく改札口まで戻ることにした。  次の電車まではまだ時間もあることだし、それに、現金が入っていたら何割かもらえるんじゃなかったっけ?  同じ高校生から現金をもらうのは気が引けるが、それより、思いのほかカッコイイ人だったらどうしようなどと妄想しているうちに改札口までやってきた。
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