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「あ、これか……」
と、すぐに番号札の正体に気がついた。
改札を出た正面に年季が入ったコインロッカーがあった。
見たような気がするどころか、毎日これを目撃していたのだった。
こんな田舎町の、旅行用バッグも入らないような小さなコインロッカーを、誰が何の目的で使うのだろうと前から思っていた。
よこしまな考えが湧き起こる。
いけないことはわかっている。
でも、あの小さなコインロッカーになにを預けているのか知りたいという衝動に駆られた。
定期券だから改札を何度出入りしても問題はない。
芙美は吸い寄せられるようにコインロッカーの前に立っていた。
彼が持っているのは「36」の札。
やはり、そのロッカーは使用中で鍵がなかった。
芙美は駐輪場の辺りからずっと彼の後ろを走っていたので、彼が電車に乗る寸前にこのコインロッカーを使用したのではないというのはわかっていた。
それよりも前からこのロッカーを使用しているということになる。
今朝は時間がなかったから取り出せなかったのだろうか。
それともずっと預けっぱなしなのか。
古いコインロッカーだから、使用料は1回100円で、時間が経過しても料金が加算されないタイプのものだ。
あまりに日数が過ぎたら取り出されてしまうことがあるかもしれないが、何日も放置するつもりであるなら、こんな目立つところに鍵を挟んではおかないだろう。
まだ彼が預けた物はこの中に入っているはずだ。
彼は今、電車の中だ。
すぐにこの場所へは戻ってこられない。
開けて覗いてみたところでバレはしない。
盗むわけじゃない。
また百円を入れて元の通り鍵をかけておけばきっと大丈夫。
「36」のロッカーは芙美の胸の辺りにあり、開けやすい位置にあった。
手にした財布から鍵を抜き取ってロッカーを開けた。
一瞬、なにも入っていないのかと思った。
少しかがんで奥まで見る。
小さな四角い空間には、折りたたまれた紙切れが1枚だけ入っていた。
内側になにか文字が書かれているのが透けて見える。
ここまできて好奇心をとめることができず、芙美は紙切れを広げた。
『きみがもしこの手紙を見たのなら、もう一度ロッカーに入れて鍵をかけ、その鍵を見知らぬ誰かに渡してほしい。さもなければきみは不幸に見舞われるだろう』
なんだこれは。
小学生の時に流行った不幸の手紙のような内容だ。
財布の落とし主がこの紙を仕込んだのだろうか。
意味がわからない。
まぁ、それもそのはずだろう。
芙美が勝手に開けてしまったのだから。
何とももやもやした気分で自分の財布から百円を出して鍵をかけた。
そして元の通りに拾った財布に鍵をしまって駅員に預けた。
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