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「変わらないね」
友梨亜は両方の手でニヤケの小さな顔を包み込んだ。
ニヤケは目を細めてゴロゴロとのどを鳴らした。
前世で出会った者と接触するというのも、考えてみれば初めてのことだった。
前世の自分とは縁もゆかりもない異国の地に生まれ落ち、自分を取り巻く新たな人々と出会い、新たな言葉や風土になじみ、そして一生を終える。
壮大な旅をしているかのように、長い年月、世界をめぐった。
前世の自分を断ち切って、一からの人生を楽しんだ。
だというのに、再び「猫の島」に戻ってきてしまっては、前世の自分に関わらずにはいられなかった。
「なんで……。なんで、わたし、殺されたんだろう……」
ニヤケは友梨亜の手をするりと抜け、音も立てずにのそりのそりと庭の出口の方へ向かった。
その途中、ちらりと友梨亜の方を振り返る。
「おいでって、いってるのかな」
友梨亜はニヤケのあとを追って庭を出た。
「ニヤケ、待って」
生け垣と石垣の狭い路地を抜ける。
お母さんに連れられてバス停へと向かう道だ。
その先の少し広い通りは、友梨亜としてはまだ行ったことのないところだが、そうだ、記憶にある。
今世の記憶と前世記憶が、ジグソーパズルのピースようにはまりながら、「猫の島」がどんな街だったか浮かび上がってきた。
友梨亜が殺されたのは潮の匂いが濃く香る海辺の近くだった。
夕方そこにいると学ランを着た男子生徒がいつも通りかかる。
とてもおだやかで、やさしそうな表情をした少年だった。
バッグからナイフを取り出しても、給食で残した食パンを切り分けるのだろうぐらいにしか想像がつかなかった。
あの少年はどこの家の子だっただろうか。
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