26人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
もうすぐバイトがあがる時間だなと時計を見上げたときだった。
店内にチャイムが鳴った。電光掲示板を見ると7番テーブルからの呼び出しだった。
注文の品はすべて運んであるので、追加の注文だろうか。
もしもクレームだったら面倒くさいなと思いつつ、純也は「お待たせ致しました」と声をかけた。
「これなんだけど」
と、若い女性客が見せたのはスマホだった。
クーポンか何かだろうかと、画面をのぞきこむも、なにも表示されていない。
チラリと女性客の様子をうかがう。
「さっき、電話が鳴っててね、テーブルの下をのぞいたらこれが落ちてたの。前の客の忘れ物なんじゃない?」
「あ、すいません」
「自宅って表示されてたから、持ち主がかけてきたのかも。面倒くさかったからとらなかったけど」
「ありがとうございます。こちらから連絡を取ってみます」
やっぱり面倒なことだったかと思いながら丁重にスマホを受け取る。
裏側の感触が変だった。
ひっくり返すときらめいた小さなストーンがデコレーションしてある。
自分でやったのかはわからないが、明らかに女性ものだった。
機種はずいぶんと古いように思う。
頻繁に買い換えられない中高生あたりが持ち主だろうか。
しげしげと見ていると着信音が鳴った。
確かに、相手は『自宅』だ。
自宅に戻ってスマホがないことに気づき、家の電話からかけているのだろう。
客が早く出ろといわんばかりにこちらを見ているので、軽く頭を下げて裏へ引き返しながら電話に出た。
最初のコメントを投稿しよう!