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だから、夏美は暇なのだ。
とはいえ適当というのもなかなか骨が折れるので、無料で配られた電話会社の電話帳を片手に一件一件登録していった。
一日もしないうちに500件に到達した。
すると、まだ一件も登録していないはずの「ハ」行にアドレスが登録されていることに気がついた。
見ると『花子さん』という名前が登録されていた。
これが噂の花子さん?
震える手で『花子さん』に電話をかけた。
夏美はコールを数えるくせがある。
五回鳴っても相手は出なくてどんどん不安は増していった。
バカバカしい。
八回目が鳴って切ろうとした時、相手は出た。
「……はい。もしもし」
押し殺したような低い声で、男とも女とも判別がつかなかった。
「ご依頼はなんですか?」
「え?」
意味がわからず聞き返す。
「ご依頼です。あなた、幸せに、なりたいんですよね?」
「え……ああ、はい」
そうだ、『花子さん』に電話をかけると幸せになれるという噂だった。
「あなたが幸せになるために、わたくしは何をすればいいのか教えてください」
「市井さんを……××中学一年四組の市井玲奈さんを、不幸に貶めてください」
「……不幸とは?」
「たとえば……階段を、転げ落ちるとか……」
「承りました」
すぐに電話は切れて、本当の出来事だったのかもわからないくらいだった。
次の日、学校に行ってみたら市井さんは登校していた。
いつものようにグロスを光らせて、つやっぽい唇で友達と話していた。
――やっぱりね。そんなこと、あるわけないか
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