第14話 水辺の男の子

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「この辺って水難事故多いんですか」 「多いかどうかはわからないけど。全くないわけじゃないわね。ただ、海水浴客より、釣り客とか、あと、なんていうの、水上バイク?とか」 「監視員がいないときってことですかね」 「ああ、そうね。そうかも。防波堤の近くは遊泳禁止になっていたでしょ。離岸流が発生するし、危険なの。釣りをやる人とか、あの防波堤で波が荒くても粘っていたりするからね」 「最近は? なんかありました?」 「どうだったかしら。亡くなった人は最近は聞かないかしらね」  亡くなったとするなら不謹慎だが、あの男の子が幽霊であってほしいと思ったり。そんな馬鹿げたことがあるかと思っている自分とが拮抗している。 「ひょっとして、見たの?」 「え? 見たって?」  肝を冷やしながら問い返すと、女将さんは亮司と同じように両手を胸の前でぶらりとさせた。 「幽霊よ。たまにいるの」 「幽霊がいるんですか?」 「うちも古いから。廊下がきしんだとか、風の音がしたとかで、幽霊騒ぎが起こったりするの」  どうやら、笑い話の方の幽霊騒ぎらしい。  長く民宿業をやっていれば、キャーキャー騒ぎ立てる女子集団が襲来するとかありそうな話しだ。 「じゃあ、海で幽霊が出るような噂があるとかは?」 「特に有名ってことはないんじゃない? あなたは聞いたことある?」 「いえ、ないですけど」 「肝試しなら、海より薄暗い森の奥にあるキャンプ地とかのほうが怖いかもよ」  女将さんの冗談じみた提案に、隆邦は愛想笑いを返した。  適当なところで話しを切り上げ、男たちが雑魚寝する部屋に戻った。  幽霊が出そうなほどみょうな静けさだったが、あの男の子につきまとわれている気配はない。  目をつむり、何度も寝返りを打つうちに夜が明けた。  来た甲斐があったと思ってしまったほど、翌日も海水浴日和だった。  眠さでぼぅっとした頭を海水浴びて目覚めさせる。  海は平和そのものだった。  誰かを捜索している様子もない。きっと見間違いだったのだろう。  その一件については忘れかけていた。
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