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大学生になってひとり暮らしをしていたのだが、正月くらいは実家に帰って来いと、まだ実家に居座っている兄貴にいわれて帰省することにした。
長時間家の中で両親と共に過ごすのが苦痛らしい。
だったら家を出ればいいのにとつい口を出したら、オレは給料を家に入れている、お前の家賃はオレが支援しているようなものだとやり返され、反証もできずに丸め込められた。
駅から自宅までの道すがら。
久しぶりに見る景色。
山に囲まれて日が落ちるのも早い。
川にかかる橋の上は冷たい風が通り抜け、路面が凍ることもあるようなところだった。
コートの襟を立て、橋を渡る。
すると橋の真ん中辺りにあの男の子がいたのだった。
この寒空に薄手のパーカーで、季節感を超越した男の子が待ち受けていた。
そのまま男の子が川に飛び込んだとしても、もう慌てない。
もはや、男の子を救うことはできないのだ。
「どうしてオレの前に現れるの?」
「べつに……お兄ちゃんに取り憑いてるわけじゃないよ」
以前と違う答えが返ってくる。
「だって、オレと遭遇するの、三度目だよね」
「ぼく、自転車にはねられて、痛くて動けないでいたら――」男の子は手すりから川底を覗き込んだ。「川に投げられたの」
「え? 思い出したの?」
「うん。この川だよ」
幽霊として現れているということは、死んでしまったということだろう。
でも、小さな男の子が家に帰ってこないとなれば、けっこうな騒ぎにならないだろうか。
「あ!」
なぜこの男の子を知っているような気になっていたのか思い当たった。
この付近に住む男の子が行方不明になったとニュースで見かけたような気がする。
実家に近いところだったから、頭の隅っこに引っかかっていたのだろう。
だが、帰ってきたとも遺体が見つかったとも聞いてない。
「ここから突き落とされたの?」
男の子はあいまいにうなずいた。
「危ないから遊んじゃダメだっていわれてたのに。だれにもいわずにきちゃって……でもね、ここからの夕日がきれいだから、絵を描いて宿題で出そうと思ってたんだ」
「絵を描いていたら自転車がぶつかってきたの?」
「スマホをやりながら運転してたから、見えてなかったんだと思う。ぼくもこんなところで絵を描いていたりしたから邪魔になってたんだよ」
「いや、きみは悪くないよ。せめて川に落とさなければきみは――」
その続きがいえなくて隆邦は黙り込んでしまった。
――きみは死なずにすんだかもしれないのに。
男の子は死んだことを理解できずにこの世を徘徊しているのかもしれなかった。
「だいじょうぶ。オレにまかせて」
隆邦がいうと男の子は悲しそうに微笑んで消えた。
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