第14話 水辺の男の子

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 あの子は橋の上から落とされた――。 「あ。ひょっとして……」  スマホを取り出して周辺の地図を表示させた。  スクロールさせて川をたどっていく。  思った通り、この川の下流には秋に行ったキャンプ場があり、この川の最後である河口は夏にいった海水浴場とつながっている。  男の子はこの川に関係していたのだ。  橋の上から突き落とされ、下流の方へ流されてしまったのだろう。  遺体はまだ見つけられずにいる。  男の子は幽霊となってようやく消息がつかめた。もしかしたら遺体が損壊して一部がその場所にとどまっていたことも考えられる。  こんな馬鹿げた憶測、警察にはどう通報すべきだろう。  幽霊を見たなんて証言で警察が動くなら、通報者である隆邦自身を疑ってると見るべきだ。  冷たい風が吹き抜けて身震いする。  ひとまず、うちに帰ろう。  この橋の下に何かの手がかりがあるにしても、さすがに暗くなっていく黄昏時に捜索は不可能だ。  実家に戻ると声を掛けるのもそこそこに、尿意を催してトイレに駆け込んだ。  すると、便座の上にあの男の子が座っていたのだった。  あまりに驚いて大声上げて腰を抜かしてしまった。 「どうした?」  兄貴が自室から飛び出てきた。  誰かほかにいるのかときょろきょろとしている。  トイレの方を見やるが、まさか幽霊がいるともいえない。  すると、兄貴は不思議なことを言った。 「見たのか?」 「見たって、まさか……」  兄貴にも見えるのだろうか。  あの男の子が。  だが、兄貴は便座に座る男の子には目もくれず、トイレに入ると便器の裏からタンクまで入念になにかを探した。 「なにを見た?」  血相を変えて詰め寄る兄貴に気圧され、言ってみるしかないと覚悟を決めた。 「男の子が……」と、ひと言いっただけで、兄貴は腰を抜かしたオレにまたがり、コートの襟をつかんで首を締め上げた。 「なにす……る……」  息が詰まって声にならない。 「なにを見たんだ……」 「は……橋の上で……」 「ああ……ああ、そうだよ。残りは橋の上から捨てた。バラバラにしてトイレに流そうとしたけど、全部は無理だった。だから……」  あの子は、便座に座ったまま、うれしそうでもなく、悲しそうでもなく、ただ、行く末を傍観していた。  本当は、兄貴に制裁を加えてほしかったのだろうか――と、薄らぐ意識の中で、隆邦は思った。  ――彼らは、今も発見されるのを待っている。
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