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第15話 きのうのきみ
ちょうど夏休みの最終日だった。
がらんどうの学び舎を通りかかると、非情な日常が思い起こされて、ここを避けるよりもここから旅立った方が良いのではないかという考えが、何の前触れもなく頭をよぎった。
裏門をくぐり抜けたすぐそこに校舎があって、おあつらえ向きに非常用の外階段が取り付けられてあった。
もしものときの脱出口を逆に上ってみようだなんて。
ほんの思いつきだった。覚悟を決めたところでいざとなれば尻込みしてしまう。紗助はそんな人間だった。思いつきでなければそんなことできやしない。
避難訓練でほかのクラスが使用していたようだったが、紗助はその階段を上り下りしたことがなかった。階段から各階の校舎への入り口には鍵がかかっているはずだが、階段の入り口は扉さえない。
裏門と生け垣の隙間をすり抜け、学校へ侵入する。鉄製のなんとも心許ない階段を上っていった。軽々しい足音が校舎に反響している。
使用用途を間違えているだろうか。
いや、この階段は脱出口なのだ。
上ったその先にも、自分にしか見えない非常用の出口があるはずだ。
上ってみれば階段は屋上までは繋がっていなくて、三階で終わっていた。
踊り場から身を乗り出して下を覗く。
三階の教室で授業を受けていた自分にとっては怖いと思わぬ高さだ。
むしろこの中途半端な高さから飛び降りて死ねなかったことを考えるほうが怖かった。
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