第1話 一番下の妹

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 寝室のドアを開ける音がした。  暗がりに浮かぶ小さな影にビクリとする。  小夜子だ。  いつものように泣いてはいない。  血色の悪い顔で眠そうにしていた。 「どうしたの?」  半身を起こして呼び寄せると小夜子は美由紀の布団に潜り込んでいった。 「目が覚めちゃったの。さゆりちゃんが死んじゃう前に」 「そう、じゃあ怖くなかったのね?」 「うん」  小夜子がこっくりとうなずくと、「もういいから早く寝なさい」といって夫は背を向けて寝返った。  明日は早番なので起床が早い。毎回毎回夜泣きぐらいに騒がしい小夜子につき合ってもいられないのだ。 「ねぇ、小夜子」  目を閉じた小夜子に小声で話しかけた。 「ひとりで寝るのが寂しいの?」 「どうして?」 「いつもここに来るから」 「さゆりちゃんがいなくなれば平気だよ」 「そうだね。いなくなればいいのにね」  心の底からそう思った。  あの子はこの世にいてはならない子だ。  小夜子に取り憑くのはなぜだろう。 「ねぇお母さん。さゆりちゃんいってたよ。本当のお父さんに会いたいって」  不意を突かれて背筋が凍った。  考えまいとしていたのに、その影がちらつく。  さゆりちゃんは自分の子ではない。  そんなこと、あるわけない。 「――そっか。さゆりちゃんって、どこの家の子なんだろうね」 「さゆりちゃんね、住む家がないんだって。だけど小夜子の妹だって。おかしいよね」 「そうだね」  安心しきったのか、小夜子はすぐに寝入ってしまった。  さゆりという女の子は、今日は死ななかったのか。  死ななかったら死なないで据わりの悪い感じがした。
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