第15話 脱出口で待つ彼女

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 こうやって十年が過ぎてみればなにごともない月日だった。  人並みに不満や不安を抱え、どうでもいい「今」が「あの日」からずっと続いている。  未来ってのは「今」の積み重ねなのだと気がついたときには、取り戻したい過去であふれかえっていた。  自分の人生、もう少しマシになっていたかもしれないのに、と後悔ばかりがある。  母校からの便りが届いても、なんだか面倒だなと浮かない気分で江東芽衣子のことを思い起こしていた。  あのときはありがとうと胸を張っていえるほど素晴らしい時を過ごしてはいないし、相手は一回会ったきりの同窓生を覚えているかもわからない。  それでも紗助が書いた江東芽衣子宛の手紙を読んだらさずがに思い出すだろうか。  彼女はどんな手紙を書いたのかという興味だけが紗助を母校に向かわせた。  開校記念の式典をひっそりと見届けながら、彼女の姿を探した。  赤髪が強烈なインパクトを持っていただけに、髪の色が変わっていたら彼女を見分けられる自信はなかった。  十年経っていればなおのことだ。  手紙はクラス単位でまとめて封入されていたので、タイムカプセルが開封されると、わかりやすいようにそのままクラスごとに分けられた。  江東芽衣子宛の手紙は紗助が書いたので、紗助のクラスに分けられているはずだった。  探せば江東芽衣子宛の手紙はすぐに見つかった。  そこではたと気がついた。  彼女は紗助が何組だったかを知っているだろうか。  紗助は彼女の学年もクラスを知らない。  彼女がここに現れなければ膨大な手紙の山から自分宛の手紙を探さねばならない。  彼女の顔を見分けられる自信もないのだから、いっそのこと、自分の名前が記された手紙を探した方が早そうだと、紗助はほかのクラスの手紙の山を見て回った。  おのおの自分宛の手紙を回収し、残された手紙が少なくなってきているものの、やはり見つからなかった。  だが、ひとつ、残された山があった。  10年ごとに何回かタイムカプセルが開封されたが、その都度、引き取り手のいなかった手紙は捨てるのが忍びなくて、こうやってずっと何十年も保管されているのだという。  こんな古びた手紙に紛れ込んでいるはずはないのだが、あきらめのつかない紗助は未練がましくも宛名を目で追った。  すると『江東芽衣子』という名を見つけて思わず手に取ってしまった。  丸みを帯びた女の子らしい文字だ。  同姓同名だろうか。  それとも、彼女自身が書いた手紙?  ふと視線を手紙の山に戻せばまた彼女の名を見つけた。  そうやって古い手紙の山から彼女宛の手紙を4通見つけた。  どれも筆跡が違うように思う。  別々の人間が書いたのだろうか。  そのうちの1通の封がはがれていて、なおのこと中身が気にかかった。  人宛の手紙をこっそり読むなんて悪趣味もいいとこだが、彼女が何者なのかどうしても知りたかった。  周りを見れば自分に関心を示しているやつはいない。  紗助は思い切って手紙を広げた。  こんな一文から始まっていた。
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