序章 ――誰そ彼は――

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序章 ――誰そ彼は――

 吾輩は亡霊である。  生前の記憶はすでにない。  肉体があるときのことなぞ、今は昔。  ただ漠然とこの世に未練を残し、成仏もせずに、ふわり、ふわりと渡り歩くのもまた乙なものである。  四季が移ろい時代が変わっても、人の(さが)ほど心奪われるものはない。  (うら)んでも(ねた)んでも最後のあがきまでしがみつく執念に(ほだ)されて、吾輩はきょうもこの世を漂う。
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