第8話 しあわせの花子さん

2/4
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
 バカみたいと思ったが、夏美は友達もいなくてどうしようもなく暇だった。  なぜなら、中学校に入学して間もないというのに、気づけば夏美はまたいじめの標的にされていた。  入学祝いにようやく買ってもらったスマホなのに、友達がいなくてはなんの使い道もないもんなんだなぁと、しんみりと思った。  それでもメモリーには5件の登録がある。  父と母の携帯電話と、友人になるはずだった三人の女子生徒。  入学式の日に番号を交換したときは、ほんとうにうれしくて、これからずっと友達でいられるとよろこんでいたのに、彼女たちから電話がかかってくることはなくなっていた。  だからめずらしく昼休みにスマホが鳴ったときには驚いた。  液晶画面には非通知と表示されている。  この番号を知っているのは五人しかいない。 「もしもし?」  おそるおそる出てみると、相手は何もしゃべらなかった。  相手の吐息さえ聞こえないが、物音が聞こえる。  それが、受話器を当てていない方の耳から聞こえる喧噪と同じだった。  相手は自分と同じ場所にいる。  夏美は教室を見渡してスマホで通話している人物を探し当てた。  市井玲奈だった。  夏美の番号を知ってる残りの二人の女子生徒が彼女を取り巻いている。  市井さんは夏美と目が合うと不敵に笑い、これ見よがしに電話を切った。  ツーツーという音が聞こえてくる。 「行こう」とでもいうように、市井さんは二人の取り巻きを連れて教室を出て行ってしまった。  それから、夏美のスマホはしょっちゅう鳴るようになった。  いずれの場合も非通知で無言だった。  市井さんだけではない。  夏美の番号はクラス中に知れ渡って、気まぐれに誰かがイタズラでかけてくるのだった。  そのうち「死ね」とか「臭い」とか一言付け加えられるようになっていた。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!