第11話 空耳

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 ある日、スマホに好きなアーティストの新曲をダウンロードしてイヤホンで聞いていた。  せっかくお金を出して買ったのだから、何度も何度も聞く。  何度聞いたって同じなのだけど、意識の仕方よってはちょっと違って聞こえてくるものだ。  例えば、ドラムの音だけを聞き分けてみようとか、コーラスやハモりに集中してみようとか。  だが、そうやって音を分解するように聞いていくと、コーラスともいえないような聞き取りにくい声がまじっているように聞こえてきた。  何度聞いてもなんといっているのかがわからない。  ホラー映画などで話題性のためにわざと心霊的な映像とか音を仕込んでいることがあるが、この楽曲にも何か仕込んでいるのだろうかと、とりあえずネットで検索してみた。  SNSでも話題になってないかと探してみるが、誰もそのようなことに気づいている様子はなかった。  だから光次はSNSで「2分40秒あたりのところで変な声が聞こえてくるんだけど」とつぶやいてみたのである。  結果は……袋叩きである。  嘘つき呼ばわりされて、ファンから総攻撃を受けてしまった。  炎上目的だろとか、楽曲をけがしているとか、ものすごい熱量でたたきのめされた。  とにかくわかったのは、その声は自分にしか聞こえていないということだった。  光次はこの楽曲を正規ルートからダウンロード購入しているから、第三者の手によって改ざんされたなんてことは考えられない。  それでも光次だけに聞こえるのだ。  モスキート音は年齢を重ねるにつれて聞こえなくなってくるというが、自分にはなにか特別な領域を聞き分ける耳を持っているのではないかと思った。  こうなったら声の正体を絶対突き止めてやると、躍起になった。  声の音域だけを抽出できるというアプリを見つけ、楽器などの余計な音を省いてより聞こえやすくミキシングした。  ただ、これだって絶対ではない。  声の音域に近い楽器の音も入ってしまうのだが、ギターやシンセがガンガン鳴っているよりは聞きやすかった。
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