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第2話 振り返っても、あなたはいない
芹那はとてもぼんやりしていた。
とにかく暑くて、これが学校へ向かっている最中でなければ、絶対に朝だとは思えないほど暑かった。
中学校の校門まであと50メートルといったところ。
ずっと遠くの方でこちらに手を振ってる子がいる。
顔の判別がはっきりとしない。
見知った顔のような、そうでないような……。
始業間際の時間帯だ。
制服を着たうちの学校の生徒が一斉に校門に向かって歩いているもんだから、あたりは学生だらけで芹那に手を振っているのかなんともいえなかった。
さすがに名前は呼んでないみたいだけど、芹那より前をゆく人たちの中で反応しているものはない。
とはいっても、誰だかもわからないまま手を振り返すのも自意識過剰みたいでいやだし、振り返って確認してみるのも恥ずかしかった。
芹那は視力が悪いがいまは裸眼だ。
いつも朝が弱くて、寝不足気味の目にはつらいから、学校についてからコンタクトを入れている。
友達ならそれを知っているはずだから、わからなかったといったら許してくれるだろう。
そのときだ。
少し前を歩く男子生徒がふざけあっていて、小突かれたときに歩道の段差を踏み外し、車道へ飛び出してしまった。
あっと、誰からともなく悲鳴が上がる。
前からは車が走ってきている。
いきなりのことで急ブレーキも間に合わず、ハンドルを切った。
対向車線へ飛び出したかと思うと、運悪くそちらを走行していた車と衝突して跳ね返り、こちらに突っ込んできた。
ウソでしょ?と思ったときにはもう遅かった。
芹那の体は車に跳ね飛ばされ、宙を舞った。
全然痛くなくて、ふわふわして。
ヘンだな。
こんなにいい天気なのに、なんでこんなにキラキラしていないんだろう。
グレーの世界に気がついたとき、通りの向こうに髪が長くて白いワンピースを着た女が見えた。
小さく口を開いて芹那になにかを語りかけようとしてくる。
けっこうな距離があるのに耳元でささやかれたみたいに、声を近くに感じた。
「あなたの未来が見えているよ」
あ、そうか、これは夢なんだと、そう思った。
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