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八月十六日、夜明け前
秀忠は夜も明けぬ頃から起きていた。いよいよ大筒による攻撃をはじめるのだ。だが、秀忠は大筒による砲撃が上手くいったとしても、城を落とすのは難しいと思っていた。大阪城にはこちらの三倍ほどの大筒があるという。いずれは反撃されるだろう。
ーーさて、問題は撃った後よな。ここ茶臼山から十、他から三十、合わせて四十もの玉が撃ち込まれては、さすがに大騒ぎとなろう。時を空ければ反撃されるは必至。ここにも玉が飛んでくるであろう。その前に攻め寄せて、ある程度の戦果を挙げる。
城内へ雪崩れ込むのは無理だ。城門は固い。とすれば……平野川内側の明石隊、三津寺郭の正則隊を狙うか。大筒の騒ぎで乱れているところを攻めるーー
秀忠は戦の収めどころを探っていたのだった。
ーーあとは引き時よ。向こうの態勢が整う前に退くーー
すぐに浅野幸長と本多忠勝に使い番を走らせて、大筒を二発づつ打ち終えたら、攻め寄せるよう指示を出した。
ようやく辺りが明るくなってきた。夜明けが来たのだ。
「よしっ! 大筒隊、準備はよいか?」
「いつでもっ!」
秀忠は頷いた。軍配を天に向かって振り上げ、力を込めて振り下ろす。
「撃てーっ!」
大筒隊がまずは五基の大筒に着火した。
『ぐわんっ!!!』
大きな炸裂音が陣内に木霊する。何事かと慌てて大筒隊の元へ駆け寄った。
秀忠が目にしたものは無残に散らばった大筒の残骸だ。五基の内、四基が形を留めていなかった。
「どうしたのだっ!」
辺りにはさく裂した大筒にやられた兵たちが、ある者は右手を失いのたうち回り、ある者は横たわったまま動かない。
「わ、分かりませぬ。破裂いたしました!」
ーーやられたっ! 豊臣の策に違いない! い、いかん!--
「おいっ! やめよっ! 誰か大筒は取りやめだと伝えてこい!」
慌てて砲撃を命じていた将達に報せを走らせた。
一発の砲弾は放物線を描き、大阪城に吸い込まれていった。
『ずんっ! ばきばきっ!』
着弾音と何かの壊れる音が響いた。
「ん!? 確か五発の砲弾が合図のはず。この一発はどういう意味だ?」
本多忠勝は首を傾げた。しばし、待つが茶臼山から続けての砲撃はない。
浅野幸長も、他の将も同様に首を傾げていた。
「ええいっ。間を空けてはいかん。ともかく、一発撃ち込め!」
忠勝は声を上げた。
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