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ーーまた相まみえん……か。ごめんだな。いくつ命があっても足りぬわーー
正則は遠ざかる忠勝を眺めながら思うが、忠勝同様に笑顔を浮かべていた。
「徳川勢は一斉に引き上げましたな」
「そうだな。しかし、昌幸よ。秀忠はどうなったかな」
「秀忠も戦国を生き抜いてきた漢。大筒の玉くらいで死んだりはせぬでしょう。
運気を持っているからこそ、いまや将軍ですぞ」
「ふふふ。そうか。だが、やはり正則爺は出たな」
「ええ、そう思っての布陣でしたからな。
大筒に対するには、正則殿に釣られたとはいえ本多忠勝の戦が正しいのです。敵味方が接しておれば、撃ち込めませぬからな」
「味方に当たるからという訳か。
まあ、再びここに寄せては来るまい」
秀頼は大きな伸びをした。固い城とはいえ、眼下に敵将が折敷く様は、決して気分の良いものではない。秀頼は開放感を感じていた。
「上様ーっ! ご無事かーっ?」
慌てて茶臼山に登った忠勝は秀忠を探す。
「おう、忠勝。そなたの所は激しい戦となったようだな」
「ご無事でしたか。安堵いたしました。
我は先ほどまで福島正則と槍を合わせていたところ、ここに大筒が撃ち込まれたと聞き肝を冷やしましたぞ」
「おお。正則とやったのか!? して?」
「強いですなあ。命拾いしたかもしれませぬわ。いずれ片を付けようと言ってきましたが、実のところは、もうやり合いたくないですな」
年を取ったとはいえ、本多忠勝に勝てる者は徳川家にはいないと秀忠は思っている。
「お前がそこまで言うとは、正則は強いのだな」
「ええ。山県昌景に劣らぬ強さでした」
忠勝は武田四天王の一人を引き合いに出して正則の強さを語る。
秀忠は何だか嬉しそうな面持ちの忠勝を眺めていた。
「忠勝。撤退じゃ!」
秀忠は大阪からの全軍撤退を決めた。結局、何の成果もあげられず引き揚げるのであった。
ここに三か月に及んだ大阪城包囲戦は籠城方の豊臣家が優勢のまま終結した。
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