米沢の戦

3/10
前へ
/598ページ
次へ
 その後で長忠は再び長房に呼びつけられる。 「長忠。不寝番と夜回りを徹底させよ。仙石秀久がすぐ近くに陣を構えおった。  それから、表に留まるおぬしらは火を焚いてはならぬ。夜襲を誘うようなものだからな。何かあったらすぐに知らせるようにな」  いつの間にか呼び捨てにされている。四月の米沢の夜と言えば、冷え込みが厳しい。火を焚かずには暖も取れない。  長忠の長房に対する怒りは膨れた。 「くそっ! 氏宗! そなたは夜回りに乗じて仙石秀久とあってくるのだ。  あやつの下では働けぬ! 寝返ると秀久殿に申してこい」  長忠は長房の傲慢さに激怒し、そんな者を大将に据えた秀忠へも憤っていた。  深夜、仙石秀久の陣へ長忠の嫡男・氏宗が訪れる。 「儂が仙石秀久である。成田長忠殿のご使者とはいかなる用件じゃ。すぐにでも刃を交えようとしている時である。手短に申せ」 「は、父・長忠は宮部長房殿から翻意し、秀久殿の陣に加えていただきたいとの事でございます」 「何!? この期に及んで翻意すると? もし左様であれば、手前は成田殿をお迎えいたそう。しかし、それは戦になった折に見せていただきたい」  秀久は、成田長忠の真意がわからず、俄かには信じられなかった。そのため戦場での寝返りを求めたのである。  もし、この話が罠であれば、戦場での寝返りはない。その時は槍を付けるだけの事だ。本当に寝返るのであれば、それにこしたことはない。どちらにしても損はないと返答したのであった。 「は、なれば戦場にて! 」  氏宗は自陣へ帰っていった。  翌朝、宮部長房は陣の南より寄せてくる仙石勢に対して成田隊を先鋒に命じた。成田隊を盾にするのである。長忠も「そうであろうな」と予想はしていた。 「長房殿、先鋒に任じていただきありがたきこと。なれど仙石勢は鉄砲もかなり持っておるようでございます。ここは長房殿の鉄砲隊をお貸し下され。緒戦は鉄砲の撃ち合いとなりましょう。急遽出張ってきた仙石勢は煙硝はさほど持参していないはず。じきに撃ち合いが終わりましょう。  その頃合いを見て、我が隊は千兵全軍で突撃いたしまする。長房殿は是非に後ろから支えて下され」  長忠はいきなり前面に立たされることを嫌い、長房の鉄砲隊を前面に出そうと企んだのである。長房は長忠の戦意の高いことを喜び、八百の鉄砲隊を配した。
/598ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3305人が本棚に入れています
本棚に追加