米沢の戦

4/10
前へ
/598ページ
次へ
 仙石勢の銃撃により戦火が開かれた。激しい銃撃戦が展開される。    やがて双方共、ほどほどの被害を出し、銃撃音はまばらになってきた。鉄砲による戦は膠着状態になるのかと思われた頃……。  それを長房の鉄砲隊の後方で眺めていた成田長忠はにやりと笑う。 「ふふふ、頃合いよしじゃ! 皆の者、前におる鉄砲隊めがけて突進せよ! 鉄砲兵を討ち取り、鉄砲を奪って、仙石殿の陣まで走れ! 皆の者白い鉢巻きを付けることを忘れるな!」  白い鉢巻きは秀久との面会の折、取り決められていたことだ。 『どどどどどっ!!』  秀久軍に対していた鉄砲隊は、後方から大勢の人が寄せる音を聞いていた。成田隊であろうと鉄砲隊の兵達は思っている。話によれば、成田隊は我らの間を抜け秀久軍に突撃して行くとのことであった。  しかし、成田隊は抜けていかず、鉄砲隊に背後から槍を突きだしたのである。 「なんだ!? これ! 我らは味方じゃ! 敵はまだ先じゃ! うっ! ……み、味方じゃ……」  背後から槍を付けられたのではたまらない。それも味方が槍をつけてくるとは考えてもいない。  宮部長房の鉄砲隊は壊滅し、三百兵ほど討ち取られた。残りの五百兵もほとんどが鉄砲を投げ出して逃げ散ってしまった。 「やや! 長忠め! 寝返りおったな! 裏切り者の成田長忠を討ち取れっ!」  宮部長房は激しく怒り、成田長忠隊への突撃を命じたのであるが、長忠隊はすでに秀久隊に吸収されてしまっていた。 「うぬ、許さんぞ!」  長房は地団駄を踏んだ。  鉄砲隊が壊滅し、戦意のさほど高くない宮部隊の末路は哀れなものであった。 秀久隊に存分に槍を付けられ壊滅し、宮部長房はほうほうの体で逃げ出したのである。仙石勢の被害は百二十名ほどであった。  秀久は勝鬨を上げて、米沢城へ「南からの徳川方は片付きもうした」と報せを送る。秀久は落ち着いたところで、改めて成田長忠と面会する。 「成田殿、よく参られた。貴殿の処遇は関白様がお決めになる。それまで手前と同行されたし。したが残してきた御家族が心配でござろう。氏宗殿をすぐにでも本国に帰国させ御家族をどこぞへ匿われた方がよい」 「お心遣いありがたきこと。では早速、愚息を本国に向かわせまする。実は大関晴増殿もお味方にお誘いしたいのですがよろしいか?」 「あくまで関白様のご裁量になるが、きっと認められよう」
/598ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3305人が本棚に入れています
本棚に追加