米沢の戦

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「と…の…との…殿! 殿! しかっりしてくださいませ! 殿ーっ!」  その声で兼続は現実の世界に引き戻された。 ーーなぜ、空を見ておる? どこだここは?   ……たしか戦をして……。そうか、儂は撃たれたのだ。馬から落ちたのかーー 「大丈夫である。生きておるわ。痛っ!」  左の肩に激痛が走る。左肩の付け根を撃たれたようである。 「い、戦は? 戦はどうなった?」  兼続は痛みをこらえて立ち上がった。引いて行く最上兵が見える。 「殿、戦には勝ちましたぞ! 最上は引いて行きます。殿! しっかりして下され!」  そう告げる兼続の重臣・上山又七は涙声である。 「き、聞こえておる。大声を出すな」  兼続隊の兵は新式の鎧のせいであろうか思った程兵は減じていない。最上隊を打ち砕いたのだ。 「又七。勝鬨を上げよ!」  兵達の勝鬨が上がる!  勝鬨を聞いた兼続は安心したのだろうか。 「すまぬが、儂は眠くてかなわぬ、少しばかり横になる」  再び気を失った。出血で気を失ったのだ。  兼続はすぐに館山城に運び込まれた。大量の出血で、兼続は三日間、目を覚ますことはなく、必死の手当が行われた。四日目にようやく目を覚ます。 「戻って参ったぞ。大殿と太閤殿下と酒を飲んで参った」  そう言って笑う。大殿とは上杉謙信である。黄泉の国へ足を踏み入れたのであったのかもしれない。よく見ると米沢城にいるはずの景勝も座している。 「兼続! よう戻って参った。ほんに良かった、良かった」  景勝の頬は濡れていた。  兼続の傷は深く、肩は弾を取り出すために大きく抉られている。落馬の際に捻ってしまったようで、首もよく回らない。出血が激しかったこともあり、当面は床に伏せることになりそうである。 「殿。戦は? 米沢城は?」 「心配いらぬ。最上は一旦、小其塚へ退いた。宮部隊は仙石秀久殿が退けた。伊達は東におるがな。城には秀久殿に入ってもらっておる。  何も心配せずともよい。今は体を直せ」  兼続は安堵して、眠った。  又七に兼続の面倒を見るように強く言い渡すと、上杉景勝は米沢城に戻っていった。  直江兼続重傷の報せは大阪城へも届く。 「儂は米沢に向かう!」  慶次郎は秀頼に米沢行きを直訴する。盟友である兼続が重傷を負ったと聞いて、黙ってはいられなかった。
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