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慶次郎は目を細めて何やら思案顔だ。
「ふむ、どれほどの人数が入っておるか?」
「は、これはあくまで推測ですが炊飯の煙を見ますに僅か二百から三百程かと」
「そうか。御苦労であった」
慶次郎は夕闇に暮れゆく飯塚館の方を見ていた。
ーー飯塚に籠る者ははてさて何者であろう。だが、敵ではない気がするのうーー
慶次郎は行くたびもの戦場を乗り越えて来ている。敵の気と言うものを肌で感じることができた。殺気とでもいおうか、そういった類の気を飯塚館からは感じることができなかったのである。
慶次郎は明朝から戦を始めることにし、兵達を休ませた。
夕餉を陣で採り、散策を兼ねて馬で辺りを回ることにした。共は宮本一真のみだ。佐分利重堅は陣を守らせた。
飯塚館の正門前に馬を寄せ眺めていると、脇の小道から着流し姿の一人の年寄りが歩いて寄ってきた。日も暮れて顔は分からない。
一真は『刺客か!?』と身構えるたが、慶次郎が手で制する。
「ははは。どこの誰かと思えばご隠居でしたか」
笑いながら話しかける。
「ふふふ。友が傷を負ったと聞いて、年甲斐もなく来てしまいましたわ」
その老人も笑った。
一真は火を興し松明に灯を付けて老人の顔を見た。
「あ、昌幸様!」
その老人は隠居し信濃・上田に居るはずの真田昌幸であった。
「ん? なんだ、そなたは今分かったのか?」
慶次郎は小首を傾げた。
「よいか。一真。武将(もののふ)にはそれぞれの持つ気がある。一角の武将であればな。そして、その気は一人として同じものはない。それを察することができるようになればその方も一人前じゃ。はははっ」
「はあ。精進いたしまする」
「冷えてきましたな。立ち話では何ですから中に」
昌幸は館の中に二人を招き入れた。
囲炉裏を囲んで、野沢菜を肴に酒を酌み交わす。一真もご相伴に与(あずか)った。重賢には昌幸の配下の者が繋ぎを取っている。
「御隠居。いかほどの兵を連れてまいられた?」
「老兵ばかり二百五十」
「いずれも歴戦の将と言う訳でござるな」
「さよう。信幸に負担をかけるわけにもいかんので、儂と同じく一戦をひいたものばかり。したが、みな戦巧者でござる。
それから、儂を御隠居と呼ばれるが、年はさほど変わらぬではないか。そう呼ばれると何とも萎んだ気がしますぞ」
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