老武将

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 惟新斎は話を続ける。 「朝鮮は明に頼らねば一人立ちもできぬ有様。単純に我が国の事を学ぶためでござる。特に兵卒の仕様を学びたいと申しておりました。  先の我が国との戦で、自国の兵が弱い事を思い知ったのでございましょう。あの時は正則殿や清正殿などは向こうの者たちが鬼と呼んでおりましたからな」  惟新斎も正則、清正と共に恐れられていたのであるが、他人事のように話していた。 「ふむ。それでは和睦の条件としてはこちらに損はないな。では、すぐにでも纏めるといたすか」  早く朝鮮とは和睦し、日本国内のことに専念したいのであった。 「ふふふ。そう仰ると思い、もう纏めて来ましたぞ。  あちらの示した条件、すべて飲んで参りました。  上様からおしかりを受けるかとも思いましたが、はよう纏めた方がよいと思い、独断で決めてまいりました。お許し下され」  惟新斎は頭を下げたが、その態度は詫びれた様子は窺えない。  秀頼は一瞬、勝手に和睦の決をとってきた惟新斎に対し少々怒りを覚えた。  しかし、よく考えて見ると、惟新斎の手際は見事であり、朝鮮に一歩も引くことなく難しい話を纏めてきた手腕を認めた。  一方的に侵略された朝鮮からすれば、惟新斎の話した条件では納得するはずがない。おそらく、もっと厳しい条件を示されたことだろう。惟新際は飄々としているが、相手を宥めすかし、あるいは恫喝まがいのことをしたのかもしれない。  ともかく、こちらに損はない話に纏めてきたのだろう。そう思った。 ーーさすがに歴戦の将であるな。余もまだまだだな。この御人は精気に溢れ、漢儀がある。このような者はお師匠の他は、清正爺、正則爺ぐらいであろうかーー  物思いに耽る秀頼に、惟新斎が顔を覗きこんだ。 「上様? 手前が独断で決めてまいり、お気を悪くされましたか?」 「いやいや、そうではない。見事な手際に感じ入っておったのよ。  ほんに御苦労でござったな」  秀頼は惟新斎にその場で金子五千貫を与えた。惟新斎は思わぬ褒美に相好を崩したのだった。 「上様。交易の話ですがな」 「うん? どうかしたか?」 「実は早速に朝鮮の商船に乗り大阪に乗り付けもうした。  今は淡路の湊に付けさせております故、後の仕置はよしなにお願いいたしまする」  惟新斎はもうすでに朝鮮の商船を連れて来ていたのであった。 「まことか!?」  秀頼は大いに喜ぶ。
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