高虎退治(一)

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 信濃は当面の間は未だ徳川に通じている国衆を取り込み地力を高めさせる。  このように一つづつ、各地の分析と手立てを組み立てていくのだ。  その結果、懸案事項として残ったのは、秋田の佐竹義宣の調略、家康の子でありながら豊臣家を擁護する姿勢の強い結城秀康への対応、そして藤堂高虎攻めについてであった。 「ふう。もう夏ですね、暑い暑い。夕暮れになり、ようやく涼しくなってきましたが」  幸村は湯のみの水をごくりと飲む。秀頼も衣の前をはだけて手で仰ぐ。 「幸村。今日はこのくらいにして夕餉でもとるか」 「そうですね。ちと頭を休めねばいい策も出ませんね」 「そうしよう、そうしよう。では、利長も呼ぶとしよう」 「それでは正則殿がやっかみますぞ」 「くかかかっ。爺は最近、やっかみが激しいからな。では、皆を集めるか。  実は惟新斎殿と話をしたいのだ。御仁も呼ぼう」 「はははっ。結局は、大阪名物「大宴会」ですね」 「大宴会とまではいかぬ。今、ここに残っているのは少ないからな。それでも宴会じゃ!」  こういう話は纏まるのが早い。すぐに宴(うたげ)の準備がなされ、将が集う。  大阪城大広間に集った者は、豊臣秀頼、真田幸村、前田利長、大野修理治長、福島正則、前田正虎、片桐且元、薄田隼人、小姓や旗本などの若い武将ら在城の者。先日より大阪へ来ている加藤清正、島津惟新斎、六輝隊の面々、その他に三木城から横浜茂勝、向島から板倉昌察などであった。  加藤清正は家臣であり堺奉行を務めている毛利勝長を秀頼の直参に推挙しに来ていた。  すぐに宴ははじまった。  今宵は軍議でも評定でもない。ただの宴だ。夕餉を楽しみながら思い思いに語り合っている。  特に惟新斎の周りには人が集まり賑やかだ。今までは領国が遠方ということもあり、はじめて惟新斎と酒を酌み交わす者が多い。 「関ヶ原の時は儂は敵でありましたが、惟新斉殿の『死中に活』の戦ぶりはお見事でござったなぁ」  酒が入り、いつも以上に饒舌になった正則が言う。 「ほんに! さぞ本陣に突っ込まれた家康めは肝を冷やしたでありましょうな。その時の家康の顔を想像するに笑いがこみあげてきますぞ。ぶははははっ」  清正も頷いて、徳利を惟新斉に向け傾ける。
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