高虎退治(一)

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 秀頼の話を補足する幸村によると、秀則は合力を頼むかもしれぬということだ。 「織田殿も意気盛んでございますなあ。  ……どうでござろう。手前も織田殿に加勢し、一暴れしとうございますが」 「ふふふ。正則爺は城勤めが窮屈になってきたのであろう?」 「ははは。さすがに上様、左様でござる。たまには手足を伸ばしとうござる」 「これ、市松。貴様だけ抜け駆けしようとはずるいぞ! ならば、上様、手前もお願いしとうござる」 「ははは。何とも血の気の多い爺どもじゃな。幸村、何とする?」 「あれ? 上様は私に投げられましたな。これでは差配によって手前が恨まれてしまうではありませぬか。はははは」 「そうよ、余は人に嫌われるのは嫌じゃからな。そちの役目じゃ。ふふふふ」 「仕方ありませぬなぁ。では正則様には美作の織田勢に合力をお願いしましょう」 「なんと、市松だけでございますか? 手前は駄目でございますか!?」  がっくりと項垂れて清正が呟く。大きな背中を丸めた姿は笑いを誘う。 「ぷっ。清正殿。そう落ち込まれますな。  そうですなあ……。  そうだ! 清正殿には伏見に向かっていただき近江を攻めていただきたい。上様ようございますか?」  秀頼も頷いた。近江攻めの話などは秀頼と幸村は話したことはない。この場で幸村がはじめて口にすることだ。この宴がもたらした効果といえる。  清正は嬉々とした面持ちで大きく頷いた。 「ようございます! これは楽しみでございますなあ!」  先ほどまで丸めていた背を伸ばして、任せろとばかりに胸を張る。 「おい!虎之介よ! 気負いすぎてしくじるなよ!」 「なに!? そなたこそな! がはははっ!」  互いに若いころから苦楽を共にした二人のやり取りは、さながら漫才だ。  夜が白々と明けてくるころまで宴は続き、大阪城は笑いに包まれた。  翌日は多くの武将の体には酒が残っており、驚くほど静かな一日であった。
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