第1章

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部活が終わり、いつもの駅に着く(田舎の小さな駅だ)。 見覚えのある顔の女子がいた。 あれは、確か…二階堂…下の名前が思い出せないが、たぶん一度も話したことはない。 二階堂もこちらに気付いたようで、読んでいた本から顔を上げ、目が合った。 ここは話し掛けるべきタイミング…そのはずだったが、言葉が出なかった。 二階堂もすぐにまた、本に目を落としてしまった。 仕方ない…。割り切って壁にもたれる。 二階堂の横に十分スペースのあるベンチに座るだけの図太さはなかった。 ケータイを開いて時間を見る…次の電車は…あと15分位か。 話し掛けるべきか……話し掛けるべきだよな……話し掛けるとしたら、やっぱり男の俺からだよな…。そんな風にだらしなく逡巡していた俺だが、妙なことに気がついた。 静かだ…静か過ぎる。 今は二階堂と俺しか駅にいない(これも不思議なことだが)。 さっきまで騒々しかった蝉の声は随分と遠い。 心地良い風まで吹いてきて、こんな静けさがあるものかと、目を閉じた。この時間を、二階堂も共有してるはずだと、勝手に思い込んだ。 いや、変な話しだが、この静けさは二階堂が作り出してるんじゃないか、そんな気がした。                   遮断機の警報音が鳴りだした。 電車が来る。 もう15分経ったのか? 目を開けてケータイを見る。経っていない…そうか、平戸方面のか。 A(二階堂)「南野くん」 不意打ちだ。全く予想、いや期待していなかった声が耳に飛び込んできて、俺の脳は軽くパニックを起こした。 A「さようなら」 なぜだかわからない、確かに軽くパニクったが、即座に「やられた、先手を打たれた、やっぱり俺から話し掛けておくべきだった」…そんな悔恨が押し寄せた。 二階堂は俺からの返答など期待する素振りも見せず、背を向けてホームへ歩き出す。 とにかく、何か返さねば、人間性を疑われる。 B(南野)「…二階堂!…さん」 立ち止まる二階堂。 B「…また明日」 なんでだ!そこは無難に「さよなら」でいいだろ!確かに同じクラスだが、「また明日」なんて関係か?!…という断罪は止めてくれ。 二階堂は振り返り、微笑みながら小さく手を振って、到着した列車に駆け寄って行った。 …やられた…完全に…後追いだ…。 二階堂の声が…頭から離れない。
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