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あれから十年ほど経っただろうか。私は今も彼を待っている。
何度か廃棄されそうになったが、その度に軽微の怪奇現象を起こして難を逃れた。――のだがそのお蔭で七不思議の一つに名を連ねるようになった。面白がって悪戯をしていく子も多いが、そういう子にお仕置きをするのも通例のようになっている。
そのせいで七不思議としてのグレードが上がっていく、ぶっちゃけ悪循環ではあるが、楽しいので改める気は今の所ない。
今の私は一人では無い。数こそ少ないものの、所謂、同類の子達も増えた。何でも新しく来た校長が古物マニアで、買ってきた物の中にそういうものも少なくない為に、現在の校舎は心霊の坩堝と化している。
一般人にはいい迷惑だろうが、私にとっては後輩が増えて喜ばしい限りだ。――たまにやんちゃな子もいて、その度に止めるのが大変ではあるが。
「今日は新しく赴任してきた先生を紹介――したいと思ったのですがまだ来て……」
美術室の後ろに私の本体はある。部屋中を見渡せる所で、新任教師の到着を待っていた。
どんな人だろう。優しそうな先生がいいな。そんな声が生徒達からは聞こえてくる。
移り変わりを、私は見て来た。一年、二年と、変わらぬ姿で彼らを見守ってきた。色々な教師がいた。怒りっぽい人、笑顔が可愛い人、気の弱そうな人。十年という年月は、人にとっては長くとも私にとっては一瞬に等しい。
だからこそ愛おしく、だからこそ価値があり、面白いのだ。
「すみません、遅れました!」
部屋の戸を開け放つ。初々しいスーツ姿の男性は、困ったような笑顔で教壇に立つ。
「初めまして、私は――」
相変わらずの拙い言葉。それが何処か嬉しくて、いつの間にか微笑んでいた。
さよならだけが人生だ。だけど、一度のさよならが永遠だとは思いたくない。
「私は、約束を果たしにここに赴任しました。もう一度、ここに来るために」
また出会うための、十年前のさよならを、私はもう一度噛み締めた。
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