第1章

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教室の戸を開けたら、そこには……… 「遺骨…?」 小さな骨壷があった。中に、臭いのない水が溜まっている。 『知ってる?人骨って、年月が経つと、最終的には水になっちゃうんだって!不思議よね~』 火葬場で、オヤジの骨を拾ってる時、母親がおもむろに呟いた。20年以上、会っていないオヤジとお袋。「葬式だけは挙げてあげたい」そう言って、葬式だけは立派に挙げた。わんわん泣いて、死体に泣きついたこの人を、皆、優しい人と言った。(ずっと、他人事だったろ?)女遊びが激しくて、借金、ギャンブル、アルコール中毒。俺は10歳まで、父親の顔を知らない。知ってるのは…生まれた時から殆ど、親父が家に帰って来た事がない事、借金まみれで、そのツケを全部お袋と俺に背負わせた事、俺は、親父の借金返済と同居していた痴呆の婆ちゃんの徘徊、汚物まみれの日常をたった一人で学校にも行けず面倒見る事になった事、差し押さえになった家から放り出されて、行くあてもなく寺で首を吊ろうと思った事。どれ程もがき、しがみ付いて必死で進学した学校も就職先も、取り立てがきて、自主退職退学をしなきゃいけなくなった事。それでも、まだその頃は「俺が家族を守んなきゃ。妹と母さんだけには、この苦しみは味わせたくない」って、ひたすら家族の幸せと安否を願ってた。何度、脅されても、殺されかけても。家族だけは……… 「死んでないじゃない」 そう言って、俺を置き去りにした母と妹。父親が肝硬変になった時も、「父親と同じ血液型なんだから、お前がどーにかしろよ。お前が死のうが、どーだっていい」「私達には関係ない。だって、お兄ちゃん、長男でしょ?」また、父親の虚言癖だと皆、思ったのだ。父は、昔からお金が欲しい時だけ、「殺されるゥゥゥ!」とか「一緒に死んでくれぇぇぇ!」とか散々喚き立てて、家や職場にまで乗り込んでくる。それで、用が済むとケロッとアッサリ、キャバ嬢とグァムやタヒチで豪遊しに行くのだ。………もう、救えない。俺は、オヤジと家族になれない。そう、決心した。3.11を境に、オヤジから金を要求する連絡は来なくなった。 「……随分、小さくなったな、オヤジ」 無味無臭。誰の心に遺る事もなく、お前はただ、眠るんだな。 「…俺も同じ、か」 俺は骨壷にひたりと浸かった。
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